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榎本恵牧師のコラム

2018/04/13

二人はまだ 理解していなかったのである。   ヨハネ20:9


「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」(山本五十六語録より)言わずと知れた連合艦隊司令長官山本五十六の名言です。太平洋戦争の端緒となった真珠湾攻撃を指揮し、1943年、南太平洋ブーゲンビル上空で米軍機に撃墜され戦死した山本五十六が、実はアメリカとの戦争に最も反対していたことは有名な話です。その彼が、部下を指導する時の心得として、いつも口にしていたのが、この「やって見せ」の言葉でした。まさに今、読んでも、心に響く名言と呼ぶにふさわしい言葉ではないでしょうか。

さて、話は打って変わりますが、今、私たちが礼拝を守っている、「甲西伝道所」は、「ピスガ甲西」という老人施設の一室をお借りして礼拝が守られています。私も時々その礼拝の奉仕をさせていただくのですが、そこには大きな模造紙に筆で記されたこの山本五十六の名言が飾られています。もちろん、この施設の設立者で95歳になられる、後宮俊夫牧師が、山本五十六司令長官のもと、海軍士官として連合艦隊に従軍していたからではないでしょうが、そこに置かれている看板とその言葉がいつも気になっていました。

確かに、人を動かすということは大変なことです。人材育成などと簡単に言ってしまいやすいですが、特に介護現場などは、「職員に仕事を続けてもらえるにはどうしたらいいのか」と日々頭を悩ますのが現実なのではないでしょうか。特に、最近の若い人の中には、大変な思いで就職したにもかかわらず、まだ働き始めて間もなしに辞めてしまうというケースが、稀ではなくなって来ているのだそうです。職場の人間関係や環境、待遇や労働条件が、自分の思っていたものとは違うと言って、彼らは簡単に辞めてしまうそうです。もちろん、ブラック企業からは早々に逃げ出さなければなりませんが、会社の側からするならば、「たまったものじゃない」と怒りと諦めの混じったため息が聞こえて来そうです。「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」という以前に、どうすればやってみせるところまでたどり着くのかが、大問題なのです。

どうすれば、人は動いてくれるのか。それはとても難しいものです。どこかの国の大統領のように、気に入らないものは次から次に首を切ってしまったり、人事権さえ握ってしまえば、後は飴と鞭で人心掌握でき、嘘をついてでも自分を守ってくれるなどと言うのも、もう破綻しているのではないでしょうか。人が動くのは、地位や名誉を得るためや金銭や財産を得るためだと考えることは、一見正しいようで、実は寒々しく虚しい考えなのではないでしょうか。

聖書の中には、イエスが十字架刑ののち葬られた墓から復活された出来事が書かれています。その中でヨハネ福音書は、大変興味深いエピソードを語っています。最初に墓が空っぽであることを知ったマリアが、ペテロともう一人の弟子にそのことを告げます。そこで二人は走って墓へやって来ます。そこで聖書は、何度も「見た」と言う言葉を使います。「身をかがめてのぞくと」(20:5)「亜麻布が置いてあるのを見た」(20:6)そして「見て信じた」(20:8)と。彼らはイエスの葬られているはずの墓を覗き込み、そこに確かに亡骸はなく、ただそれを覆っていた布だけが置かれているのを見たのです。そして生前、イエスの言われていた、復活を信じたというのです。ところが、ヨハネは、その後大変不思議な言葉を続けるのです。「イエスは必ず死者の中から復活されることになっているという聖書の言葉を、二人はまだ理解していなかったのである。」(20:9)

見ることはできても、信じることはできても、理解することができない。彼らが、このことを理解するまでには、もう少し時間がかかるのです。そう、ペンテコステの日、降って来た聖霊によって、彼らはそのことの本当の意味を知り、そのことの証人として働き始めるのです。まるで人が変わったように、彼らはその命を惜しむことなく、地の果てに至るまで、主の証人として宣教の道を歩み出すのです。

見ることも、信じることも大切なことでしょう。しかし本当の自分の生まれてきた意味を、そしてその役割を理解する時、人は誰が止めようが、走り出すのです。たとえどんなに条件が悪くとも、貧乏になろうと、人から蔑まれようとも、その本当の意味、すなわち使命を理解した時、人は生き生きと動き出すのです。金を与えたり、地位を保証したり、脅したり、すかしたりすれば人は動くというのでは、あまりにも人間を馬鹿にしているのではないでしょうか。

苦渋の決断の末、山本五十六海軍大将が戦死した日(1943年4月18日)から数えて75年。その日を前にして、私はこんなことを思っています。

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