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榎本恵牧師のコラム

2017/07/19

剣を取る者は皆、剣で滅びる。   マタイ26:52


この夏、2本の沖縄戦を題材にした映画が封切られた。一つは、メルギブソン監督の『ハクソーリッジ』。沖縄戦最後の激戦地、浦添の前田高地の攻防で、一人の米兵が武器を取るのを拒み、衛生兵として負傷兵たちを命がけで収容したという実話に基づいた映画だ。舞台となった前田高地は、切り立った崖の上にある難攻不落の日本軍基地であり、それを米兵たちは「ハクソーリッジ」すなわち、のこぎり尾根と呼び、大変な激戦地となったのだ。主人公は、セブンスデーアドベンティストというキリスト教の一派の熱心な信徒であり、聖書の「汝殺すことなかれ」という言葉に忠実に従い、衛生兵として従軍する。彼はその信念の故に、誤解され、またいじめられもしたけれども、最後は多くの仲間を救った英雄として讃えられるのだ。(あまり書きすぎるとネタバレになるので、インターネット情報程度のものです)

さて、もう一つの作品は、ロジャーバルパース監督の『STAR SAND 星砂物語』。ロジャーバルパース監督といっても、ほとんどの方は知らないことだろうと思う。けれども、彼は1967年に日本に来てから、宮沢賢治に魅せられ、賢治の本を英語に翻訳したり、また大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』では助監督を務めたりした大変な知日家なのだ。この『STAR SAND 星砂物語』も自身の書いた同名小説をもとに彼がはじめて撮った映画なのだという。太平洋戦争の最中、小さな架空の島の洞窟で脱走した日本兵と米兵が出会い、共に暮らし始める。そこに幼い少女が加わり、三人の奇妙な、けれども穏やかで平和な共同生活がはじまる。ところが、そこへ、米軍を敵として憎む負傷した彼の兄が担ぎ込まれる………。実は、この映画のロケ地が私たちが住んでいた、沖縄本島北部の伊江島であり、たまたま映画封切りの日に見に行ったおかげで、バルパース監督と出会い、幸運にも少しお話をさせていただけた。

私たちが、伊江島で生活していたこと、伊江島のガンジーと呼ばれた阿波根昌鴻さんのところにいたことなどを話すと、彼は興味を持ってくださり、伊江島のことも、阿波根さんのこともよく知っていると言い、「僕は脱走兵こそが本当の非暴力だと思うよ」と流暢な日本語で語ってくれた。

戦争の只中で、武器を取ることを徹底的に拒否し、衛生兵として負傷した兵士たちを命がけで助け出した『ハクソーリッジ』の英雄と戦争から逃げ出し、脱走兵という汚名を背負い、洞窟の中で隠れ潜むように生きる『STAR SAND 星砂物語』の主人公。まるで対照的な二人ではあるけれども、この二人に共通していること、それは人を殺さないという覚悟なのだ。自分の命が惜しいからでもなく、誰かに命じられたからでもない。それは、ただ私は人を殺さないという覚悟に他ならない。けれどもこの覚悟はなかなか持てるものではない。クリスチャンだからとか、非暴力運動に憧れているからといった程度では、到底無理であろうと思う。では、どうすればよいのだろう。それは今の私にはわからない。ただ一つだけ言えることは、一点の曇りもなく「剣を持つものは剣で滅びる」(マタイ26:52)を信じること以外に、それを成すことはできないのだ。頭の中がお花畑であると揶揄されても、時代遅れの理想主義者と笑われても、愚直に信じ切る者だけが、それを成し遂げることができる。少なくとも私はそう思っている。

ところで、実はバルパース監督自身が、ベトナム戦争の脱走兵であったそうだ。臆病者、裏切り者の汚名を背負いながら、世界を旅し続け、それでもなお生き抜いて来た彼が、見つけたのが沖縄鳩間島の星砂の浜だった。静かで美しい平和そのものの島の、しかしそれを覆っている星砂は、無数の有孔虫の死骸であったのだ。『STAR SAND 星砂物語』。この夏、是非この映画を見て欲しい。

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