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榎本恵牧師のコラム

2019/04/08

主はこう言われる。正義と恵みの業を行い、搾取されている者を虐げる者の手から救え。寄留の外国人、孤児、寡婦を苦しめ、虐げてはならない。   エレミヤ22:3


2年ほど前になるだろうか、大阪からの帰りの電車の中で、若い女性に声をかけられたことがある。何か変なことでもしたかと、一瞬ひるんだけれど、「榎本先生」と言われて安心した。親しげに声をかけて来てくれた彼女の話を聞いてびっくりした。なんと彼女は、私がブラジルのアシュラムに奉仕に行った時に参加していたサンパウロのアライアンス教会のメンバーだったのだ。鹿児島出身の2世である彼女は、県費留学生として、鹿児島大学に学びに来ているという。友達に会うために関西に来ていて、たまたま車両の中で私の姿を見かけ、声をかけてきてくれたのだ。まだたどたどしい日本語で、嬉しそうに説明してくれる彼女のキラキラした瞳を見ながら、最初、訝しげに彼女のことを見た自分のことが恥ずかしかった。偶然とはいえ、なんだか不思議な神様の導きに、こんなこともあるのかと今でも忘れることができない。

今回行ってきたブラジルのアシュラムでは、残念ながら彼女自身には会えなかったものの、この出来事は当地のメンバーにも広く知れ渡っていて、「これは運命の出会いかもしれない。もし私が独身だったら、、、、」などと軽口を叩くと、丁度参加していた彼女のお父さんに大目玉を食らった。2年に一度の出会いではあるけれど、回を重ねる度に、参加者との間の交わりが深くなってくる。彼らは、この日本語しか話せない牧師の説教を辛抱強く聞き、、共に学び、食べ、、笑ってくれる。同じ聖書の言葉から、福音の喜びを味わい、感動を素直に表してくれるのだ。今回で、4回目となるブラジル伝道旅行は、とても楽しく有意義なものであった。(今回の様子は、ホームページのニュースアンドトピックス「第36回ブラジルアライアンス教会アシュラムに奉仕してきました」をクリックすると動画が見られるようになっている)

けれども、同時に彼らとの出会いが深くなるにつれ、その抱えている大きな問題や悩みに触れることも多くなり、心が痛む。現在のブラジルの経済状態は深刻な不況下にあり、若者の多くは、大学を卒業しても就職できないという状況が続いている。公務員と民間の間の給与格差が大きく、みんな公務員になることを目指すが、狭き門であり、貧富の格差は広がるばかり。犯罪が多発し、治安は決して良くない。そんな中、多くの若者は、海外での就労を目指す。特に日系人の子弟は、父祖の国(彼らの多くは3世、4世の世代)を目指すのだが、彼らが思い描いていた通りの日本であることは稀であり、それよりはむしろ失望と落胆に終わることの方が多いのだ。ブラジルのJ牧師のお嬢さんも、大学卒業後、制度を利用して日本へやってきた。けれどもコンビニ弁当の工場で朝から晩まで住み込みで仕事するという、あまりの過酷な労働環境に、3ヶ月あまりで帰国したという。帰ってからも専門の心理学を生かした仕事を探しているけれど、なかなか見つからないと呟く彼女のため息を聞きながら、本当に申し訳ない気持ちになってくる。

私たちの国は、今、外国人労働者の力を借りなければ、と危機感を口にしながら、制度設計もそこそこに法律を作り、彼らを受け入れようとしている。いや、もうすでに多くの外国人労働者が、私たちの見えないところで、そして見えるところで働いているのだ。私たちが、食べるお弁当が、宿泊するホテルの清掃が、そして毎日のように利用するコンビニのレジで、もう彼らなしにはこの国は成り立たないといても過言ではないだろう。私の関わっていいる沖縄の病院にも、滋賀の老人施設にも、研修生の名目で外国人が働き始めている。しかし、私たちの多くは、その実態についてあまりよく知らない、というよりも知ろうとしないのではないか。たまに、ニュースで見聞きする彼らは、決して外国人労働者、出稼ぎ、留学生、研修生、不法就労者という名前ではない。彼らは皆、私たちと同じく、それぞれの名前を持ち、帰りを心配する家族や友人がおり、泣き笑い、怒り悩む人間なのだ。

聖書の神は、常に、そんな彼らに、限りない愛を注がれる。主はこう言われる。「正義と恵みの業を行い、搾取されている者を虐げる者の手から救え。寄留の外国人、孤児、寡婦を苦しめ、虐げてはならない。」(エレミヤ22:3)

私たちの国は、もうすでに247万人(2017年6月末 1位中国人、2位韓国人、3位フィリピン人、ベトナム人、そしてブラジル人「ニューズウィーク日本版」より)といわれる外国人労働者を受け入れている。そして、彼らの働きによって支えられているのだ。彼らは決して、安い労働力でも、日本人の嫌がる仕事をしてくれる人ではない。皆、大きな夢と期待を持ちながら、遠くに残した家族のために一生懸命に働く、寄留の民なのだ。私は、そんな彼らに、少しでもいいから、この国に来てよかったと言ってもらいたい。それが、ブラジルで出会った、彼らの屈託のない笑顔に答えていくことであり、お前達もまたこの世では寄留民ではないかと言われる神に応えていくことだと思っている。

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