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榎本恵牧師のコラム

2023/06/21

水が顔を映すように、心は人を映す。   箴言27:19


今日、62歳の誕生日を迎えた。還暦を過ぎ、高校時代の同窓会の案内などが来るようになる。50年近く前の同級生たちに会いたいなと思う反面、すっかり変わってしまったであろう自分自身の姿を思いつつ、あの彼も彼女も同じだろうかと想像してしまう。残念ながら、コロナで何度か延期になっていた同窓会には、ちょうど仕事が重なり、行くことが叶わない。またいつかどこかで、彼や彼女に会えたならと期待しつつ、今回は諦めようと思う。

ところで、今回の箴言の言葉を読みながら、ある有名な格言を思い起こしていた。「40歳を過ぎたら自分の顔に責任をもて」。アメリカ合衆国16代大統領アブラハム・リンカーンの言葉だそうである。確かに、人生の中盤を迎える頃の人間は、その経験にもよるのだろうか、美醜とはまた違う味わいというものが、自然と顔に現れてくる。子供の頃の無邪気な笑顔も、人生の酢いも甘いも経験した今、変わってくるものだ。また、その人自身の置かれた立場、立場によって、それなりの顔つきになるものかも知れない。時々、テレビで子供の頃憧れていたアイドルが、「あの人は今」などと出てきた姿に愕然とするということも、よくあることだ。いずれにせよ、リンカーンの言う通り、人はその人生の半ばにおいて、その顔に責任を持たなければならない。もちろんそれは、アンチエイジングなどと言って、より見栄え良いものにするために、努力を惜しまないなどと言うものではないことは、言うまでもない。私なども、20代の頃から髭を生やし始めたのだが、一度は剃ってみたものの、ツルツルの口元があまりにも頼りなく思えて、今でもはやし続けたままでいる。しかし、本当は、そんな外見のことではなく、まさに「水が顔を映すように、心人を映す」(箴27:19)のだ。その人の顔は心を映す鏡であり、その責任は自分自身が持たなければならない。しかし、それは言うまでもなく並大抵のことではない。

かつて、マルティン・ルーサー・キング・JR牧師は、「汝の敵を愛せよ」という説教の中で、リンカーン大統領の一つの有名なエピソードを話している。それはリンカーンが大統領選挙に立候補した時、その対抗馬として争ったエドウィン、スタントンとの和解の出来事であった。選挙戦中激しい誹謗中傷を浴びせたスタントンをリンカーンは、当選後、彼の内閣の重要なポスト、陸軍長官に登用する。それは、多くの反対や懸念の声を遮った中での英断であった。しかしその和解は、後に非業の死を遂げたリンカーンの遺体を前にして、スタントンが「リンカーンはこれまでに生まれた人間の中で最も偉大な人物のひとりであった」と言わしめるほどのものとなったのである。キングは、こう言っている「もしリンカーンがスタントンを憎んでいたならば、2人とも恨みに満ちた敵として、自分たちの墓場へ行ったことだろう。しかし愛の力によって、リンカーンは、一人の敵を一人の友に変えたのである」。

人の憎しみさえも友情に変える愛。それはまさにリンカーンが、そしてキング自身がそうであったように、好きになることなどできない人を、しかし愛すると言うことなのだ。自分に敵対し、ひどい言葉を持って誹謗中傷する人を、また家族を脅され、家に爆弾を投げ込むそんな人たちを、愛すること。このことこそが、その人の顔を作り上げる。自分の顔に責任を持つとは、そんな生き方を選び取ろうとしていくことに他ならない。

リンカーンは56歳でその生涯を閉じ、キング牧師は、39歳で、凶弾に倒れた。私は、もう彼らの歳をはるかに上回っている。果たして、「水が顔を映すように、心は人を映す」、そんな顔になっているか。62歳の誕生日に自分に向かって問いかけている。

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